2018年11月 1日(木)

フード

パスタ生産者"マンチーニ"2018小麦収穫

11月になるとイタリアでは、パスタ用硬質小麦の種まきが行われる。収穫は年に1回だけで、毎年6月から7月上旬。今年は運よく7月に、自社小麦を栽培するマンチーニ社の収穫に立ち会うことができたので、その時の様子をレポートしたい。

 
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▲小麦畑の中に建つマンチーニ社

 

マンチーニ社は、地図で見るとイタリア中部の右側、アドリア海に面したマルケ州の丘陵地帯にある。マルケ州は、上にエミリア・ロマーニャ州、下にアブルッツォ州、左側にウンブリア州とラツィオ州が接している場所だ。

当日出迎えてくれたのは、社長のマッシモさん。


「やあ、よく来たね! 収穫の時期に間に合って本当によかったよ。」
彼がマンチーニ社の創業者。年齢は50才。とても若く見える。

美味しいパスタを食べて続けていると肌ツヤが良くなるのかもしれない。


「僕は、32才で実家の小麦畑を継いで、パスタ作りを始めたんだ。元々は僕の祖父、マリアーノが1938年に農業会社を立ち上げたことに、マンチーニ社の起源がある。祖父の持っていた7ヘクタールの小麦畑は、父のジュゼッペによって70ヘクタールにまで増やされた。僕は大学時代に小麦栽培とパスタ作りの研究を行い、自分のパスタ会社を立ち上げるのが夢だったんだ。そして今ここにマンチーニ社があるのさ。」


小麦畑に赴くと、一面、黄金色の穂が気持ちよさそうに風になびいている。
「今年のイタリアは、5月~6月に雨が多い日が続いた。小麦にとって、穂が付いたあとの水分は大敵で、カビなどの様々な病害や生育上の問題が起こるのではと心配していたんだ。でも幸いその後は晴天が続いたおかげで、今年も例年並みの良質な小麦が収穫できているよ!」

 
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▲社長のマッシモさん

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▲空の青とのコントラストが美しい収穫期を迎えた小麦畑

 

畑の中でマッシモさんは、両手で小麦の穂をすりつぶし、中の実を取り出して言った。
「これを取って食べてみて、とても乾燥しているのが分かるよ」

たしかに。口の中で噛むと、カリッとしてよく乾燥している。
「この乾燥が収穫の時にとても大事なんだよ。」


小麦畑では、ミエーティトレッビア(Mietitrebbia)という小麦の実だけを収穫する機械が活躍していた。前の小麦収穫部分が、横長のドリルのようになっており、両端から小麦を絡めとり、機械の中で実だけが取り除かれ、後ろから麦わらを排出するようになっている。
斜面でもおかまいなしに、ものすごい威力で進んでいく。

 
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▲小麦を収穫するミエーティトレッビア

 

「ところでマンチーニ社では、実は自社小麦の品種を3種ブレンドしてパスタを作っているんだ。その3種というのは、グルテン含有量が多くパスタにしたときにアルデンテ感を強く生み出す“マエスタ種”、貧しい土地でも栽培できる丈夫な品種の“ナッザレーノ種”、そしてグルテンの質がよく、パスタにしたときに弾力を生み出すレヴァンテ種の3つなんだけど、これはなぜだと思う?

これは、一定して高品質のパスタを作り続けるためなんだ。毎年、気候は変動する。昨年のような猛暑、2014年のような涼しい年。その年その年で品種により小麦の状態も異なってくる。暑さに強い品種は南向きの日当たりのいい畑で育て、弱い品種は北向きの斜面に植える工夫をしたり、それらをうまくブレンドしたりすることで、マンチーニ社のパスタのクオリティーが保たれているのさ。」


まるでワイン造りのような考え方だ。


しかし、品質の安定だけでなく品質向上への取り組みも欠かすことはない。

彼らの所有する小麦畑の中には23種の品種を育てる実験畑があり、日々品種の研究を行い毎年改良していく。マンチーニ社の品質向上への情熱が詰まったこだわりの場所だ。


この中に来年2019年に使用予定の新しい品種があった。
その名は、Nonno Marianoノンノ・マリアーノ種。

“ノンノ”はイタリア語でおじいさん。マッシモさんのおじいさんに捧げる品種だ。品種ひとつひとつに思いをこめて丁寧に品種造りに取り組めるというのも、大手メーカーではなく家族経営の彼らならではの特権といえる。


このノンノ・マリアーノ種についてマッシモさんは次のように話す。


「ノンノ・マリアーノ種はレヴァンテ種より更にグルテンの質が良いのが特徴。ノンノ・マリアーノ種を混ぜてパスタを試作したところ、モチモチした食感が増してパスタを噛んだときの跳ね返すような弾力を生み出すだけでなく、アルデンテももっと長持ちするようになったんだ。
だから来年からタイプの似たレヴァンテ種の割合を減らしながらこのノンノ・マリアーノ種を増やしていく予定だよ。

ちなみにこの品種はマンチーニ社の近くに住む農学博士オリアンナ女史と共同開発したもの。彼女は10年前からマンチーニ社の品種改良の手助けをしてくれているんだ。僕の大学時代は彼女の書いた小麦研究の本を読んだものだよ。ノンノ・マリアーノ種は、マンチーニ社の自社小麦栽培のきっかけとも言えるこの地での小麦畑を最初に作った祖父に捧げる大事な品種さ。」


パスタを構成する主要な品種を変えるというのは非常に大きな決断となるが、その決断の拠りどころとなるのは、長年の研究の積み重ねが生んだノンノ・マリアーノ種への信頼と自信だろう。

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▲様々な品種が並ぶ、マンチーニ社の実験畑

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▲ノンノ・マリアーノ種の畑

 

更にマンチーニのパスタで特筆すべき点は、イタリア国内のミシュラン3ッ星レストランのシェフたちに愛用されているという点にもある。


「今年からロンバルディア州のDa Vittorioに導入が決まったから、イタリアに9つあるミシュラン3ッ星レストランのうちなんと4店がマンチーニのパスタを使っていることになるんだよ」と、マッシモさんは控えめながらも誇らしげに話す。


料理だけでなく食材そのものも含めて、独自のオリジナリティを重視する星付きレストランの多くは、ありきたりの乾麺のパスタはあまり使用したがらない。
それにも関わらず、1店舗だけでなく、それだけ多くのトップレベルのシェフたちがマンチーニのパスタを使っているということは、その品質の高さや味わいが認められている証になるだろう。


乾麺の利点の一つは、トップシェフを魅了したパスタとまったく同じものを、その店の外でも体験できることである。もちろん美味しい一皿になるかどうかは料理の腕によるが、誰が袋を開けてもマルケ州で育った小麦の素晴らしい香りが鼻腔を満たしてくれるし、どう茹でても、噛んだときに口いっぱいに広がる小麦の味わいと風味を楽しむことができるだろう。


畑からこだわる真摯なパスタ作りで、多くのプロをも魅了するマンチーニ社のパスタを是非一度皆さんにも味わって頂きたい。

以前のマンチーニについての記事はこちら マンチーニ社のページはこちらから

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