2020年12月17日(木)

料理/ワイン講習会

ピッツァ・コンテンポラーネア オンラインセミナー

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先日、イタリアにおけるピッツァのトレンド、ピッツァ・コンテンポラーネアについて、ピッツァイオーロ向けのオンラインセミナーを開催しました。
ピッツァ・コンテンポラーネアとは、最近イタリアで流行の現代的なピッツァのことで、高いコルニチョーネが特徴のピッツァ・ナポレターナやピッツァ・イン・パーラ(切り売り)、独創的なトッピングを使ったピッツァなどが当てはまります。


約1時間、二部構成で実施した今回のオンラインセミナー。
一部では、ピッツァ・コンテンポラーネアのためにカプート社が開発したヌーヴォラ粉及びヌーヴォラ・スーペル粉を使った生地作りのレシピや手順紹介した実演動画をご覧いただき、
二部では、ピッツァ・コンテンポラーネアの伝道師として活躍するナポリのピッツァイオーロ、ヴィンチェンツォ・カプアーノ氏(トップ画像右画面)が参加者の方々の質問に丁寧に答えていきました。


カプート社の社長アンティモ氏、ピッツァイオーロのヴィンチェンツォ氏がともに「ピッツァ・コンテンポラーネアを実現するためには、是非ヌーヴォラ粉とヌーヴォラ・スーペル粉を使ってください」とセミナー中に何度も念押しをするほど、「ヌーヴォラ」は水分率が高い状態でも発酵が活発にすすみ、雲のようにふわりとした軽い生地を作るには欠かせません。
今回はその「ヌーヴォラ」が誕生した背景から、粉の特徴、生地の扱いについてご紹介いたします。

■「ヌーヴォラ」誕生の背景

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▲ヌーヴォラ

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▲”ヌーヴォラ”で作った、コルニチョーネが大きく膨らんだコンテンポラーネア・ピッツァ

 

ユネスコ無形文化遺産登録などの影響で、近年スポットライトを浴びる機会が非常に増えてきているナポリピッツァ。こうした活動を支えている様々なピッツァ関連団体は、ナポリピッツァそのものを世界に知らしめるだけでなく、同時に、それを担うピッツァ職人の環境が改善されるように投資を行ってきました。
その成果もあって、ピッツァイオーロを目指すナポリの青年が増え、将来を担う若手のピッツァイオーロが数多く現れるようになったのだそうです。


そんな青年ピッツァイオーロたちの共通点は、自分の焼いたピッツァをSNSでアップして自分の存在をアピールすること。カプート社のアンティモ社長いわく、「良いか悪いかは別にして、彼らはSNSを過剰使用しているなと思っていたよ。時代の流れだから当然かもしれないけれどね。だけど、彼らの投稿するピッツァを見ているとあることに気付いたんだ。彼らは見栄えを良くするためコルニチョーネを分厚くして焼き上げる傾向があったんだ。」とのこと。


このトレンドに気付いたアンティモ社長は実際に青年ピッツァイオーロたちのもとを回り、意見を聞き始めました。彼らから聞かれたのは、「残すことなく食べられて軽くて消化にもよい、なおかつ見栄えもよいコルニチョーネを焼いて全体的に軽い仕上がりのピッツァを作りたい」、という声でした。実際、ナポリではコルニチョーネを食べきらない人も多く、その傾向は特に若い世代で顕著に見られていたそうです。


これらの意見を受けてカプート社は、彼らの思いを実現できるような「ヌーヴォラ」の開発に着手。
ヌーヴォラ誕生の背景には、常にいち早く時代の流れを読み取り、約100年に渡りピッツァ、パン、スイーツなど各部門の職人達の声を製粉に活かし続けてきたカプート社の伝統と信念が隠されていたのです。

 

■「ヌーヴォラ」を扱う上での特徴となる性質

   
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▲焼きあがったコンテンポラーネアはこんなに縁がふっくら。

 

「ヌーヴォラ」には今までのピッツァ粉とは異なる特色が様々ありますが、大きな違いは主に、発酵力の強さ、生地の作り方、そして焼き方の3つです。


① 発酵力の強さ
ヌーヴォラ生地の大きな特徴がこの「発酵力の強さ」。一般的なピッツァ作りでは、いつ生地を使うのか逆算をして生地を仕込み、温度調節をして発酵時間を調節し、最終的な仕上がりを調整します。その際、例えば冷蔵庫に生地をしまえば発酵を一時的にストップさせて、生地の状態をキープできます。しかしヌーヴォラ生地は発酵力が強く活発なため、一度開始した発酵を途中で止めることはできません。 
これはヌーヴォラを扱う上で一番難しい点で、生地作りだけでなく仕込む量の計算、また配合などに細心の注意を払わなければ雲のように軽い生地の、ピッツァ・コンテンポラーネアができない理由でもあります。


② 生地の作り方
ヌーヴォラには推奨の作り方が2種類あります。
(1) Diretto(ディレット)…ピッツァ作りで一般的に広く知られている、粉、水、塩、イーストを一回の生地練りで全て入れ発酵を進める生地の作り方。
(2) Indiretto(インディレット)…発酵種(prefermento)を作ってから2度目の生地練り(chiusura)を行う方法。ディレットと違い粉、イースト、水で発酵種を作りそれを発酵させ、この発酵種に粉、水、塩を追加し生地を作っていく方法。通常よりも高い経験値や条件が求められますが、イーストの使用量を抑えられること、その結果発酵時間を長く取ることができ、より消化の良い生地に仕上げたり、小麦の風味をより強く表現できることなどが利点として挙げられます。


上記2種類の作り方のうち、ピッツァ・コンテンポラーネアの第一人者ヴィンチェンツォ・カプアーノ氏は
とりわけIndiretto(インディレット)の製法をおすすめしており、セミナー内の動画で紹介した手順もヌーヴォラ・スーペル粉で発酵種を仕込んだ後、ヌーヴォラ粉で生地練りをして生地を準備していました。


③ 焼き方
伝統的には約450℃の窯でおよそ70~90秒で焼き上げるのがナポリピッツァですが、コンテンポラーネアの生地は水分を多く含んでいるため、水分をしっかりと飛ばす必要があります。窯の温度は約400℃、あとは職人が生地の適切な焼き加減を見極めなければいけません。焼く瞬間までも、通常以上の気配りが必要なのです。

 

■「ヌーヴォラ」の発酵力の強さのひみつ

 

先ほどの「ヌーヴォラ」の特徴の中で、発酵力の強さを挙げました。
なぜ、他の粉よりも発酵力が強いのか、それには原料小麦が関わっています。
※ただし「ヌーヴォラ」の原料小麦について詳しい解説をしようとすると、様々な分析値や専門用語が登場して話が難解になってしまうため、今回はよりイメージが掴みやすいように平易なワードでお伝えいたします。


「ヌーヴォラ」の製粉には、他の小麦粉の製粉に使用される通常の小麦(Grano)ではなく、「発芽小麦」(Grano Pre-Fermentato)というものが使用されています。この「発芽小麦」というのは実際に発芽(Germinato)しているのではなく、あくまで発芽の準備ができた状態(Pre-Fermentato)であるということ、そして通常の小麦よりも遅摘みしているということ、まずはこの2点を理解してください。


この「発芽小麦」(Grano Pre-Fermentato)はアミラーゼという酵素の含有量が豊富で、でんぷんが分解されやすく、結果的に発酵のための糖が生成されやすい特徴があります。このことが「ヌーヴォラ」に含まれる糖分の多さに関与しており、発酵を活発にすることに繋がっています。(添加物はゼロ)


いわばパッシートワイン(ブドウを遅摘みにすることで糖分を凝縮)のような考え方と、カプート社のアンティモ社長は述べていましたが、小麦の場合、ブドウとは異なり遅摘みにしても水分は失われないまま、栄養価は高い値が記録されます。つまり発芽直前にアミラーゼが活性しでんぷんの加水分解作用が始まる(=糖が産生され始める)タイミングで収穫する、ということ。
それこそが、既存の粉とはまったく違った発酵力の強さをもった生地になる秘密なのです。

 
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▲カプート社の小麦畑

 

最後は原料小麦の成分という少し細かい話になってしまいましたが、このように、「ヌーヴォラ」は新世代のピッツァトレンドに対応できる粉を開発するために原料小麦の状態から研究を重ねて作られたものであることを、ご理解いただけましたでしょうか。


また、アンティモ社長が繰り返し言葉にするのは、「ヌーヴォラ」をどう使いこなし、発酵を活発にし、軽く消化にもやさしい理想のピッツァを仕上げるか、そこが難しく実現させる人によってやり方も違う、ということ。扱いが単純ではないからこそ、“ヌーヴォラをどう生かすか”こそがピッツァイオーロの腕の見せ所なのだそうです。

  「ヌーヴォラ」の詳しいレシピや生地作りの手順などについての動画はこちらから→【カプート】”ヌーヴォラシリーズ”を使ったピッツァ・コンテンポラーネアの"インディレット"生地作り実演 「ピッツァ・コンテンポラーネア」について記事はこちらから→『ナポリピッツァのニューウェーブ "ピッツァ・コンテンポラーネア"』

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