今年のTANTILIAは、元ミラノ駐在員・廣澤が、イタリアワインの造り手の素顔に迫ります。今回は、世界中で高い評価を得ている北イタリア・ピエモンテ州のワイナリー、ラ・スピネッタ社の醸造家・ジョルジョ・リヴェッティ氏をご紹介いたします。
私が、彼と初めて会ったのは、ミラノで駐在員をしていた時、お客様と一緒に彼のワイナリー『ラ・スピネッタ社』を訪問し、地元のレストランでランチを共にした時の事であった。既にグラスに注がれた3種類のワインをテーブルにサービスし、「この中に、私が造ったワインが1つある。それはどれで、銘柄は何か?」と尋ねるのである。テイスティングの動きを逐一観察されているようでランチどころではない。
そして、そろそろコメントをという段になって、リヴェッティ氏が、それぞれのワインの生産者、銘柄、特徴まで解説付で正解を言い始めた。
そして、最後に「ワインを観る時はブラインドが一番。意識が集中し、先入観なしにワインの味を評価出来るからだ。決して試したのではない。」と。その後、料理が運ばれ、テーブルに笑顔が戻り、美味しいピエモンテ料理と、種が明かされた3種類のワインを楽しみながら過ごしたひとときが、最も印象に残ったシーンであった。
その後、2001年の秋に、私はミラノ駐在を終え帰国し、現在の部署に配属となり、講習会などの企画担当をする事となった。リヴェッティ氏が初めて来日したのは、その翌年。今では年2回来日するようになり、その度に彼と一緒に講習会を開催しながら全国を周っている。
“通訳泣かせ”なのは、彼の話す言葉の1フレーズの長さが非常に長く、しかも早口だからである。私が通訳の為に遮ろうとすると、「最後まで言わせてくれ。ここで通訳を入れてしまうと、わたしの情熱、想いが講習会参加者の皆様に通じない!!!!」と。私は、額と背中に汗をかきながら、ペンを走らせ、通訳する毎日である。彼のポリシーは、『情熱を失ったら、ワイン造りを止める。』その言葉どおり、彼は、朝早く起き、畑に出て、農夫としての仕事を行う。
『ワイン造りの90%は畑仕事にある。農夫である自分が造るワイン、それがラ・スピネッタ社のワインである。』
これが、彼の口癖だ。
その言葉どおり、エネルギッシュな表情、ごつごつした手の平、畑仕事で培ったスタミナや起床時間の早さなどその一端を日本でも感じることがある。
ただし、彼の魅力は、力強さだけではない。繊細な性格の持ち主でもある。特に女性への優しさからは、彼のダンディズムを感じる。その一例を紹介すると、会食の時間、席を立っていた女性が戻ってくる時、彼は会話中でも、スーッと立ち上がり女性を迎え、そして女性が座り始めたら自分も腰を下ろし始めるという一連の動作を自然にこなすのである。そのタイミングといい、心配りといい、それが自然な身のこなしとなっているのだ。力強さの中にもこういった洗練さが彼の中に溶け込んでいる。面白いのは、彼が造るワインにもこういったニュアンスを感じることだ。
イタリアで最も有名なワインガイド本“ヴィニ・ディタリア”、2007年度版で、ラ・スピネッタ社は、3つ星を獲得し、イタリアを代表するワイナリーとして世界から認められるようになった。しかし、常に農夫でありたいという彼の想いは、決して変る事は無いであろう。 <元ミラノ駐在員 廣澤>
<元ミラノ駐在員 廣澤>