高品質なプロシュットの造り手としてその名を馳せているクライ(CLAI)社は、プロシュット(生ハム)の名産地、ランギラーノにある。パルマから南西に車で30分の距離にあり、大小様々なプロシュット生産者がひしめき合っているエリアだ。
社名はCooperativa Lavoratori Agricoli Imolesi(イモラ農業労働者協同組合)の略称で、自社の養豚場は5つ、協同組合に加盟する養豚場は135農家ある。彼らが飼育する豚の数は、イタリア全体の豚の年間総畜産頭数の4~4.5%にあたる、約40万頭にもなる。養豚業の協同組合としての規模はかなり大きいほうだ。
▲クライ社のプロシュット・ディ・パルマの熟成庫
輸出マネージャーのダニーロさんが笑顔で迎えてくれた。
「協同組合として飼育する40万頭の豚から取れるもも肉は年間80万本。そのうち自社で使う分は選び抜かれた10万本のみだ。我々は最も高品質なもも肉(ファースト・クオリティ)を自社製品用にセレクトし、その選別に漏れたもも肉(セカンド・クオリティ)以下を他のプロシュット工場に原料肉として売っている。といっても、残りのもも肉(セカンド・クオリティ)も、そして更にその選別から漏れたもも肉(サード・クオリティ)までもが他社のプロシュット工場でプロシュット・ディ・パルマDOPの原料として使われるぐらいいい品質のものなんだ。80万本の中から最高品質のもも肉を自社のために最優先で供給できる、というのが我々の強みだね。
自社基準から外れたサード・クオリティでもプロシュット・ディ・パルマDOPになるのだから、厳選されたファースト・クオリティのもも肉のみを使ったプロシュットの美味しさは想像に難くないだろう。
次に、協同組合に加盟している養豚場のひとつをダニーロさんと一緒に訪問させてもらった。
養豚場のオーナーのロベルトさんに、豚の飼育で気をつけていることを聞いてみた。
「大切なことは3つある。一つ目は清潔さ。豚達は意外とデリケートなので、すぐ病気になってしまうんだ。小屋の掃除はとても基本的なことだけれど、決してさぼることのできない大切な日々の作業だね。二つ目は温度管理。最も居心地のいい環境を作ってあげたときに、豚達は最も良く育つんです。暑すぎるのも寒すぎるのも良くない。温度管理と一緒に、なるべく外の空気を小屋の中に入れてあげて、空気を循環させることなども、ストレスを貯めさせないのに大切なんだよ。うちの養豚場は空気の入れ替えの為に、小屋に巨大な換気扇を完備させたんだ。3つ目は食事が均等に行きわたっているか。やっぱり食いしん坊の豚はたくさん食べるし、気の弱い豚もいる。なるべく同じくらいの大きさの豚達が仲良く均等に成長するように目を配るのも、欠かせない仕事だ。一言で言うと、この仕事に必要なのは“真摯さ“だと思っているよ。クライ社の購入基準はすごく高くて厳しいんだ!彼らは本当にいい豚しか買ってくれないんだよ!」
▲養豚所のオーナー ロベルトさん。クライ社の厳しい基準をクリアする高品質な豚を育てている。
ロベルトさんが大げさな身振りで助けを求めるようにダニーロさんのほうを向くと、
「ダメダメ、素晴らしい原料があってこそクライ社の品質が保てるんだから!」
と一蹴されてしまった。
信頼関係があるからできるやり取りだろう。
ロベルトさんに餌について聞いてみた。
「小麦粉、大豆、ホエー、水を混ぜたものを餌にしているのだが、ただ豚を大きく育てればいいわけではない。豚の成長に合わせてどう配合を変えれば健康かつ良い肉質になるかを考えなければならない。豚がまだ小さい時は大豆を多く混ぜることで、プロテイン含有量を多くした飼料を食べさせる。これによって、小さいうちに筋肉をつけさせ、大きく成長する下地を作る。その後豚が成長していくと、小麦粉やホエーの割合を増やし、脂肪分をつけさせていく、といった具合だ。一匹一匹の豚を良く見て、真摯に、愛情を掛けて育ててやることがとても大切なんだ。」
ロベルトさん曰く、一般の養豚場はもっと簡素で、温度管理機能などが無く、適当に餌をやっているところなどもある、とのこと。クライ社は契約養豚場をたくさん持っているが、彼のように非常に良質な豚を育てられる畜産農家でなければ契約をしないそうだ。
ここまで原料にこだわった結果は、一口食べればすぐにわかるだろう。
しっとりとした舌触り、そして18ヶ月の熟成期間が生み出す熟成香と深みのある味わいが楽しめる。ぜひ脂身と赤身を一緒に口に運んで、脂身も噛み締めていただきたい。熟成するにつれて脂身もその旨みを増すからだ。
プロシュット・ディ・パルマDOPの最低熟成期間が12ヶ月なのに対し、クライ社は18ヶ月以上熟成させたDOPしか生産しない。これも彼らの味へのこだわりだ。
レストランで『クライ』の名前を見つけたら、ぜひ一度味見をすることをお勧めしたい。