モリーゼ州の州都カンポバッソから北に50kmほど進むと、なだらかな丘の中腹にテッレサクレ社が見えてくる。
隣接する同社経営の宿泊施設「クアドロフォッリオ」の部屋からは、周りを囲むように青々と並んだブドウの木と、その向こう側にはアドリア海が見える。
ここは、モリーゼ州の郷土料理と合わせてテッレサクレ社のワインが提供されるアグリトゥーリズモとしても高く評価されている。
テッレサクレ社はワイナリーとしては2006年創業とまだ若いが、ブドウ栽培農家としての歴史は1930年代にまで遡る。現オーナーは3代目となるアルフレードさんだ。
非常に情熱的で、自らイタリアはもちろんのこと世界中を飛び回ってプロモーションを行っている。
「モリーゼ州はイタリアの中で最も知名度が低い州のうちの一つかもしれないが、まだ知られていない素晴らしい食文化がたくさんあるんだ。ワインもそのひとつで、名の知れた銘壌地じゃないといいワインができないわけじゃないことは、
各地の偉大な生産者たちが証明してきた。ブドウ栽培から自らの手によるワインづくりに移行したのは、この土地の良さを最大限に表現したワインをつくりたいからだ。」
彼の挑戦はすでに実を結び始めている。
テッレサクレ社はガンベロ・ロッソ、ヴェロネッリ、ルカ・マローニ、ドゥエミラ・ヴィーニなどイタリア国内のワイン専門誌だけでも10誌以上に取り上げられており、モリーゼ州で今、最も注目されているワイナリーだと言える。
どのワインも自分にとっては子供のように大事にしているが、その中でも特に注力しているワインがふたつあるという。ひとつ目はモリーゼ州を代表する土着品種、ティンティリアだ。つくり方によっては野暮ったい味になってしまう品種だが、収量制限をし、最良のブドウのみをセレクションすることで、複雑さとしっかりした骨格を保ちながらもエレガントさを兼ね備えている。
同じことがふたつ目のモンテプルチャーノを使ったワイン”Rispetto(リスペット)”にも言える。名前は英語のリスペクトと同じ意味で、彼らを取り巻く自然や、ブドウ、そしてワインができるまでのあらゆる作業に携わる人たちへの尊敬の念を込めて命名された。モンテプルチャーノはマルケ州やアブルッツォ州が有名だが、”Rispetto”はこのモリーゼ州で最高のモンテプルチャーノをつくってみせる!という信念から始まったワインだ。
畑の標高にも違いがある。このふたつのワインに使われるブドウの畑は、他の畑が標高250m以下なのに対して450mと標高が高く、より日当たりが良い上に昼夜の寒暖差も大きい。まさにエレガントかつ力強いワインづくりに最適な畑で栽培されている。
熱い口調で語り続けるアルフレードさんを見て思い浮かんだ言葉が「カンパニリズモ」。イタリアでは各教会の鐘(カンパーナ)の音が聞こえる範囲ごとにその土地独自の文化があり、それを守ろうとする強い意識がある。
日本で言うところの「おらが村」という考え方だ。よその文化を受け入れない閉鎖的な地方根性として捉えられがちな単語だが、彼の場合には、この言葉はネガティブさとは全く別のイメージを纏っている。
郷土愛に満ち溢れ、自らブドウを育てワインの生産を行い、世界中にその素晴らしさを発信している。そんなアルフレードさんの情熱によって生み出されるモリーゼワインを、ぜひ一度味わってみていただきたい。
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