訪れたピエンノロトマトの畑は、カンパーニャ州はヴェスヴィオ山の斜面の、遠くに海を臨む見晴らしのいい場所にあった。
「ピエンノロトマトというのは” Pomodorino del Piennolo del Vesuvio DOP(ポモドリーノ・デル・ピエンノロ・デル・ヴェスヴィオ ディー・オー・ピー)”というDOP(原産地保護呼称)に指定されているトマトの品種で、このあたりで昔から作られているんだよ。」
こう説明してくれたのは、ナポリ訛りでいつも元気の良いサルヴァトーレさんだ。彼がこの畑の持ち主で、ピエンノロトマトの生産者だ。ピエンノロトマトはとんがり頭を持った特徴的な形で、皮は分厚く、味は甘みと酸味が丁度良くバランスを保っている。サルヴァトーレさんがピエンノロトマトが何重にも積み重ねられた大きな房を見せてくれた。
サルヴァトーレさん
「どうだい、うまそうだろう?でもこれは作ったばかりだからまだ緑の部分が残っているんだ。全体の約8割が赤くなった時点で収穫し、輪っかにした細い縄に引っ掛けるように房型に積み重ね、1~5kgの大きな房を作る。
積み重ねて房をつくっている。
そして風通しの良い軒先に吊るしておき、良く熟したものから順にそのまま食べたりパスタソースに入れたりするんだ。
軒先に吊るされたピエンノロ・トマト
何日も食べ続けるうちに緑だったトマトも自然と赤くなってくる。
トマトは夏にしか収穫できないから、次の収穫シーズンが来るまでの保存食だったんだよ。これは、分厚く丈夫な皮があり、火山性土壌なのでミネラルは豊富だけど水分が少ないので腐りにくく、縄に引っ掛けていてもヘタと果実がしっかりくっついているのでヘタが取れにくい、というピエンノロトマトが持つ固有の特徴があってこそできることなんだ。」
ピエンノロトマトは瓶に詰め、木の棒で潰す(スキアッチャータ)昔ながらの手法で製品化されます。
サルヴァトーレさんはさらに自慢げに話を続ける。
「特に、まさに今我々がいるErcolanoからSan Sebastianoのあたりのピエンノロトマトは、ヴェスヴィオ山の麓にあるDOP指定の13の町村の中でも数少ない、海と山にはさまれた地域なんだ。だから昼も夜も山から、海からの風が吹くので常に房は健康な状態が保たれるんだよ。」
ふと畑に目を向けると、やけにゆっくりと収穫をしていることに気づいた。
収穫の様子。
「ピエンノロトマトの収穫量はこの畑で1ヘクタールあたり16トン、つまり通常の丸トマトや長トマトの8~10分の1しかできないんだ。さらに中腰の状態で房ごとではなくひと粒ひと粒じっくり質の善し悪しを見ながら収穫するから、とんでもない重労働なんだよ。」
収穫を体験してみようと挑戦したが、炎天下ではものの10分で汗だくになり腰が悲鳴をあげた。これを毎日繰り返す農家の方々には頭が下がる思いだ。
ピエンノロトマトは昔はよくナポリの町でも食べられていた伝統的なカンパーニャ州の食材だ。今では生産者は減り、スローフード協会のプレシーディオ(失われつつある保護すべき価値ある伝統食材)にも選ばれている。
「我々は伝統を守っていつまでも作り続けるよ。ぜひこの土地のピエンノロトマトを使った、かつてのナポリっ子たちが食べていたピッツァやトマトソースのパスタを日本の皆さんにも味わってもらいたいね!」
どこかでピエンノロ・ヴェスヴィオDOPを見かけたら、この話を思い出して、ぜひ味見をしてみてはいかがだろうか。
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